えええっせい

えっせいです

正月を100倍楽しむ方法(門松)

 正月が嫌いな人はいない、と思う。勿論親戚づきあいが嫌だとか、結婚しろとか就職しろとか言われるのが幾分堪える、という人もいるだろうが、それでも総合すれば正月が嫌いな人は、ごくごく少ないハズだ。

 しかし、そんな賢明な諸兄に置かれても、私に言わせれば正月のもつポテンシャルの数%しか発揮できていないとここで指摘せざるを得ない。

 紅白を見て、初詣に行き、昼まで寝て、おせちを食べて、駅伝を見る……大いに、大いに結構だ。それも大変素晴らしいだろう。しかし、私の方が楽しんでいるのだ。

 良い機会なので、少しでも楽しみを共有したい。まずは、次の写真を見て欲しい。

 

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 なんだ門松かよ、と思うなかれ……と言いたいが、なんだ門松なのだ。

 しかし、諸兄が見ている門松と、私が見ている門松は視点が異なる。私が見ている視点は、こうだ。

 

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 やべーやつだな、と思ったかもしれない。自分でもチョット思っている。

 しかし考えても見てほしい。例えばプロ野球を見るとき。野球経験に乏しい人間は「なんかすげー飛ばしてるし、すげー早い気がする」と思うだけだろう。一方で、草野球程度でも経験があったとすると、「いやwwwあれはヤバいっしょwww人間業じゃないwww」という感想になるだろうし、元プロが解説するならば、「今のボールはですね、前の打席が伏線になっているんですよ。外のスライダーをあれだけ続けてそのイメージを植え付けて、ズバっと真っすぐ。いやあ、痺れますねぇ」くらい言ってのけるはずだ。そして、視聴者は「ははあなるほどな、やっぱり解説があると分かりやすいわね」と感心する。そして、プロ野球を100倍楽しく見ることが出来るのである。

 翻って、門松でもそういう目線があってもよいのではないか。

 

 よいだろう。

 

 例えば、次の門松。

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 これも、門松である。やはりマチュアでない目線だとすると、ただの門松である。もしかすると、ちょっと派手だよねー、とは思うかもしれない。

 しかし、愛好家(つまり、私のような人間)の目線を入れると、こうだ!

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 先ほどの門松との違いがお判りいただけただろうか。細かい解説は後述するが、要すれば、全く違うのだ。そして、こんな門松が正月には町に溢れる。それも、毎日である。なお、写真はそれぞれ東京都内と大阪府内で撮影された(後者は同好の士の共有)。

 ちなみに、その昔は12月13日から1月15日あたり、およそ一か月に渡って門松が公開されていた。しかし江戸幕府のお触れや文化の変遷があったりして、もっぱら関東のボリュームゾーンは12月28日から1月7日となっている。なんて儚い……

 と、言うわけで我々愛好家がどこに着目しているかをざっくりとご説明することで、こんどの正月に向けてウォーミング・アップをしてもらおう。

 ちなみに、私以外の愛好家はほとんどお会いしたことがない。不思議ですね、こんなに楽しいのに……

 

1. 門松チェックポイント

 

 まず、門松を見るときのチェックポイントをお伝えしたい。させてくれ。
 具体的には、上で書いたような吹き出しをチェックする形になる。

 ちなみに、時々飲み会でも同様のお話を紹介させていただいているが、正月近辺以外での高評価は全く頂いていない。世の中の皆様諸兄に置かれては、8月真夏の最中にも門松に思いを馳せる想像力を持って欲しい。なぜなら、君たちが花火を見ているその間にも、竹は伸び松は育てられているのだから……。愛好家の頭の中は、8月においても胸いっぱいに門松なのだ。なんなら、足の先まで門松。

 

【竹の形状と種類】

 

 門松! と言ったら松……ではなく、竹なのだ。おおよそ周囲の人間に尋ねると、「門松ってあの……竹のやつでしょ?」という答えが返ってくる。

 違う!

 本来的には門松の主役は松なのだ……が、実際にはやはり竹のイメージ。竹が主役。これ、間違いない。そして竹の見るべきポイントは大きく二つ。

 一つ目は、切り方。以下をご覧いただこう。

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 左からそれぞれ”そぎ”と”寸胴”(ずんどう)と言う。

 楽しむための背景知識として、左側のそぎは徳川家康三方ヶ原の戦いの折、「武田(竹田)を切る」として斜めに削いだことが発祥とされている。もっとも、後世の人の創作と考えた方がいろいろと妥当性が高かったりもするのだが……。

 そして、現在多数派を占めるのはそぎである。意識しなければ、世の中の門松は100%そぎである、と思っていた方も多いのではないだろうか。

 そのため、寸胴をあえて使う場所はそれなりの理由がある。例えば山梨県では寸胴の門松が多く、県をあげてヨイショしている。これは、上記の話が関連していて、山梨は甲府武田信玄その人の土地であるからだ。

 また、金融機関そぎを使う場合が多い。理由は、先端部が節で塞がれているので、お金が詰まりやすいようにということである。要すれば、「お金が漏れない」。ホントかよ。

 そんな馬鹿な、と笑ってはいけない。門松は、こういうこじ付けが山のように発生する。例えば、門松は29日に設置してはいけないということになっているが、これは「二十に苦がある」ということが要因とされる。ホントかよ、と思うがこれに準拠して設置する方も多い。なぜって、もし守らなくて不幸が起きたら嫌じゃありませんかね?

 門松は、そういうのが面白い。中国から伝来し平安の都を中心に発展した門松であるが、地方独自のオリジナルルールが多分にある。それを探して全国行脚するのも、また乙。そういう全国行脚な細かい話は次の章で紹介したい。

 話を戻し、そぎと寸胴。現実には、現代ではそぎが主流と見える。だから、そぎにはさらなるバリュエーションがある。ここから先は本当に想像すらしたことがない人が多いはずだ。頼むからついてきてくれ。

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 真ん中に節が入っている。これを人は”笑い口”と言う。笑っているように見えるから、とのこと。左側なんて、特にそう見えるね。
 兵庫県が発祥とする説があるが、個人的には同時多発的に発生したものなのではないかと睨んでいる。あるいは、何も考えずに竹を切っていた人が、そういう(笑い口という)考え方もできる。いずれにせよ、笑っているように見えるから笑い口、である。

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 これが通常Ver。上記の写真と比べると、明らかに違いがあるというのが分かる。あるんですよ、違いが。

 ちなみに、下記のような失敗作? もかわいらしい。特に手作りの場合は節まで気に留めないことも多いので、こういうことになる。

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 でも、門松に失敗なんてない。門松は自由なのだ。世の中にはトリコロールに塗られた門松もあるという。自由、大変結構である。

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 こういう自由な門松もあるのだ。自由、大いに結構である。

 なお、竹の種類はおおむねモウソウチクマダケの二種類である。

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 写真を見てもわかるとおり、はっきり言って区別は(素人には)ほとんどつかない。別に統計的分析がしたいわけではないので、わからなくても大いに構わないのである。

 あえて区別をするとすると、節が一本なのがモウソウチクで、二重になっているのがマダケ、と覚えておけば門松に関してはおおよそ問題はない。つまりは左がモウソウチクで、右側がマダケ。もっとも、節が二重なのはほかにもハチクという竹がいるので油断はできないが……。

 あと、竹の稈(木の幹に相当するもの。要すれば、写っているもの)が妙にテラテラしているものはマダケの可能性が高いです。ま、参考までに……。

 なお、ごくごく小さい門松にはモウソウチクマダケ以外の謎の竹を使うこともある。電気屋のオブジェなどで確認ができる。最近は、こういうコンパクトな門松も流行りだ。

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【竹以外の装飾】

 

 竹で随分と紙面を割いてしまったのだが、これには理由がある。門松は地方や個体によって独自性が高すぎて、共通するアイテムが少なくなってきているのだ。イメージする竹と松を備え付けているのは8割程度で、ほかの装飾品は千差万別と言ってもいい。

 ここでは、よく見られるものだけ紹介しておこう。

 まず、松の紹介だ。門松と言われるほどなのだから、松は欠かせない。

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 ざっくり言えば、左が関東風の背が低いもの。右が関西風の松の背が高いもの。

 おおよそここに着目すれば関東風か関西風かは分かる。分かったところでどうだ、というのは今までとは変わらないけれど。あとは、装飾過多なのが関西風です。

 飾る意義は、神聖とされる常盤木(=常緑樹)の中でも、松は千歳を契る、千歳の齢などとも言われ、特に長寿の意味合いを持つ。霜雪に耐え、常に緑を保ち、操(みさお)正しく変わるところがないから、めでたい木として用いられる。また、針のような葉が邪気を払うともされている。要すれば、色々Goodなことがあるということだ。

 また、言葉遊びとして現在では、松の名は神を「待つ」、神を「祀る」、久しきを「待つ」、「保つ」の意味も含むとされる。こういうの、お正月にはありがちだ。おせち料理なんか、こじ付けラッシュ。それに倣って門松もこじ付けラッシュなのだ。

 なお、向かって左側が雄松(黒松)、右側が雌松(赤松)を配する文化が見られることがあるが、近年はめっきり黒松だ。これは生産の問題が大きい。両方用意するの、大変でしょう?

 また、他によく見る装飾としては南天が挙げられる。赤いプチプチしたやつだ。

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 南天は、「難を転ずる(難転)」に通じる縁起物として、赤色が好まれ門松の装飾に用いられる。また言葉遊びですが、見目とても美しい。種としては、オタフクナンテンなどが一般的であるが、南天の他に「千両」や万両が使われることも多い。見た感じには一見同じなので、丸くてプチプチしたかわいいのがついている、と思っておけばOKだ。オレンジ色のもあったりもするが、門松にはまれ。

 その他よく見られるのは、梅や葉牡丹である。

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 梅は松竹梅でお馴染みの縁起のよさが売りだ。ただ、門松は旧暦の正月にもともとは想定されていたアイテムなので、実際には現代では増加になるパターンがほとんど。

 葉牡丹も、紅白の縁起のよさを買われての登場だ。関西で主にみられる。

 

【門松の土台・配置】

 

 ここまでくればもう少し。あとは土台と配置のチェックは欠かせない。

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 まずは土台。これは大きく菰(こも:藁で編んだ土台)と、割り木(竹含む)で構成されるものがある。両者多くみられるが、菰が関東、割り木が関西でよく見られる。

 また、門松の配置。街中では一つだけ立っているものもよく見られるが、現在一般的なのは二基一対の門松だ。歴史的背景を踏まえると一基でも問題はないはずだが、これは多分売り手の都g……。

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 この配置が迎え飾り。門松の竹はおおよそ大中小の三本で構成される。飾り方チェックのポイントは、中くらいの大きさの竹である。これが外側にあれば「出飾り」で、内側にあれば「迎え飾り」となる。何かが出て行ったときに縁起が良くなるのが出飾りで、例えば息子に一人立ちして欲しいときや、あるいは病院で患者に早く健康になって出て行ってほしい際などは出飾りが適当だ。ちなみに、写真は某予備校の飾りである。当然、出飾り。二度と来るんじゃないよ。多分、ムショも出飾りなのではなかろうか。逆だったらウケるな。

 一方、中くらいの竹が内側に配されるのが迎え飾り。これは、お客さんに来てほしい飲食店などによく見られる……が、あんまりそういう配置にしない場合が多い。おそらく、皆さん気を付けてはいらっしゃらないのではないでしょうか……。

 

 どうだろうか。そろそろ実際の門松を見たくなってきた頃合いではなかろうか。しかし焦ってはいけない。なぜなら、まだ正月ではないからだ。

 次の章では、各地の正月の見どころ(門松)を紹介しよう。今の段階では正月は50倍しか楽しめないが、次章で100倍になる。なります。なってくれ。

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 ちなみに、お気づきかもしれないが冒頭の二枚の門松は、順に関東風→関西風である。そういうように、それぞれの地方で大分差分があるのだが、今からご紹介する差分はそれを圧倒的に凌駕する。ぜひその目で確かめてほしい。

 

2. 全国の見どころ門松ピックアップ

 

 なので、あえて写真は載せない。なぜなら、その目で見て確かめるのが最も面白いからだ。あくまで紹介に留めたい。あと、私も行ったことがない所がほとんどなので。早く行きたいが、こればっかりは季節もの。例のウイルスが、正月頃には終息していることを願いたい……。

 なお、以下に紹介するのはあくまで一例、ごく一部である。むしろ、これ以外の情報があるなら是非とも大歓迎である。

 また、「どこそこの地方に行ったけれど、そんなもん無かった!」と怒ってはいけない。そういうこともある。文化は常に変遷するもんだ……。

 

【北海道・東北】

 

<北海道>

 北海道は、本来的にはアイヌ文化圏かつ、竹はほとんど生えないので門松の文化はなかった。しかし、本州と文化が交じり合う中で、独特の門松が形成された(もちろん、本州流の門松も多い)。

 まず広く見られるものは、松の代わりにトドマツを用いた門松。トドマツは、若松として門松に用いられるマツかマツ属のクロマツとは異なり、マツ科モミ属なのでモミのような見た目をしており、通常の門松とはイメージが異なる。見ようによっては、クリスマスツリーを彷彿させるかもしれない。

 更に、竹の代わりにトドマツの加工品や、カバを使うことも多い。これは明らかに通常の門松とは異なるので、分かり易いだろう。

 

宮城県の門松>

 宮城県には、二種類の特徴的な門松が存在する。

 一つは、仙台市で近年復刻された松と竹で門のようにくみ上げられた門松である。仙台では単に「門松」、あるいは「若松」、「枝若松」と呼ばれていたとされ、藩制時代の仙台藩仙台城下や藩内の家々に飾られていた。

 竹を立てる一般的な門松と違い、クリやクヌギの木を2本立てて松や笹竹(枝葉の付いた竹)を添え、更に左右の木の間に「ケンダイ」と呼ばれるしめ飾りを渡すことで、門のような形になっている。仙台城内に飾られた門松を例とすると、直径15cm、長さ3m以上の栗の木の柱に、竹や松を添え、根元を楢の割り木で囲む様式であったとされる。要すれば、鳥居みたいなイメージでOK。

 もう一つは、石巻市北上地区特産のヨシを使った門松である。カットしたヨシを円形に束ねて土台を作り、縁起物の松やナンテンのほか、赤や黄色のバラ、スイセンなどの造花を華やかに飾り付けたもの。北上町北上川はヨシの産地として有名で、日本全国のからぶき屋根などで使われている。つまりは、竹を使わない門松だ。

 

【関東の門松】

 

<千葉県の門松>

 市原市の姉埼神社(及びそのその氏子)では松を嫌い「門榊」を飾る。松は神聖な木とされており門松の源流そのものではあるが、榊も神聖な木のうちの一つである。今後も出てくるが、松は様々な理由で嫌われることが多い。気の毒なことだ。

 また、千葉県はカード門松(紙門松)が広く普及していることでも良く知られる。門松カードというのは、シャッターなどに貼ってある「紙の」門松を指し今では全国で見られる。

 

<埼玉県の門松>

 埼玉県は、そもそも門松を立てない風習が一部で見られる。

 例えば旧妻沼町。妻沼の神である聖天様が、ある日松の葉で目を突かれたとされ、妻沼郷の人々は門松を立てるどころか、松の木も植えなくなり、門松の代わりに榊を立てた。「妻沼聖天様松まき嫌い みんなかたぎで辛抱する」などという民謡も生まれ、また名前に「松」がつけば改名するほど徹底していたとされる。

 また、北本市石戸では、忍城の姫君の嫁入りのとき、門松と共に立てた竹が武器になる恐れがあるため、何も立てない習わしであるとされる。

 そのほか、集落ではなく個人宅で、先祖が松平家によって滅ぼされたからとか、松の代わりにモミの木の枝を使ったら運が向いてきたなどとの理由から、門松を立てない家が、草加秩父などに今も見られる。

 

<東京都の門松>

 そもそも、現在の門松は江戸時代当時の江戸城の門松に似ているとされる。これは徳川家康の出身地の三河での慣習に倣って、葉を取り除いた竹を用いたものであるとされる。前述の通り、当時は主流ではなかったが、徐々に全国に伝播された。

 また、府中市大國魂神社では、「待つ」に通じることから、境内には松の木が1本もなく、府中では門松に松を用いず、「門竹」を祀る慣習が残っている。同神社の境内には松の木はなく、また植樹してもすぐに枯れてしまうといわれている。同神社は松の木を使わずに建てられている。松使わないシリーズのうちの一つだ。

 

<神奈川県の門松>

 神奈川県の箱根では、松を使わない門松が伝統とされる。例えば、箱根神社では榊や樒(しきみ)を用いた門松を飾る。これは、箱根神社の神様が松の葉で目をけがしたことがいわれとされる(千葉の例などと同じ)。観光名所の箱根関所でも、同様に松の代わりにカシの枝葉を用いている。

 

【甲信越・中部・北陸の門松】

 

山梨県の門松>

 山梨県は、比較的門松に関して独自性の強いお国柄と言える。

 まず、前述の逸話に武田信玄が出てくる通り、武田流門松というものがある。逸話通りの寸胴切りに、土台を藁で作った化粧巻を施し、その上で結び目を家紋武田菱の形に編み込むという門松が、2020年の正月には県庁や県会議事堂に飾られるなど意識が強い。他にも所縁のある武田神社や、恵林寺などでは意識的に寸胴の門松が飾られている。

 また、大月や都留などの地域では、「お松引き」という風習があり、1月7日に毎年実施される。平安の小松引き(ざっくり言うと、門松の発祥とされるイベント)と字面は似ているが全く異なる門松送りの風習であり、山梨県丹波では300年以上の歴史を誇る。

 

<愛知県の門松>

 愛知県も複数種の門松が見られる。

 名古屋市東山植物園では、葦の門松が新年に飾られる。同所にある旧兼松家武家屋敷門は、元々石神堂筋にあった尾張藩士兼松家の屋敷門で、昭和42年に現在地に移築復元ことからその門松の伝統を受け継いでいる。 

 愛知県豊橋市には、三河の国伝統の門松が飾られる。切り出したままの枝葉がついた竹2本を立て、横にしたもう1本の竹を渡し、更に真ん中にはだいだいの実を飾る。

 名古屋の徳川園には、江戸時代の門松を模したものとして、竹が一本だけ供された門松が飾られる。「(三方ヶ原の戦いの家康が)その時に復讐の意味だったり、これからは負けないぞという意味で、竹を(斜めに切り落として)一本にしたのが始まりだといわれています」という由来のよう。

 

福井県の門松>

 福井県では、福井市田ノ谷町の大安禅寺の門松が有名である。

 何が有名かと問われれば、その飾りつけのスピード。例年、11月中(2019年は11月28日、2018年は11月22日)に飾り付けられ、全国でも圧倒的に早い部類である。通常は、近年ははやくても(クリスマスとバッティングしない)26日以降だろう。

 

 【関西の門松】

 

和歌山県の門松>

 和歌山では、熊野(田辺市本宮)にシイなどで構成された門松が伝統として伝わっている。世界遺産熊野本宮館では、シイの木(高さ約5メートル程)2本を立てて固定し、サカキを添え、木の間に渡したしめ縄にユズリハや稲穂、干し柿、ダイダイを吊るしたものを独自の門松としている。「カドカザリ」とも呼ばれ、まっすぐに伸びた枝ぶりの良いシイを使えば、家が栄えるとも伝えられている。旧本宮町付近での風習であったようだが、現在では一般には見られない。

 

<京都の門松>

 京都の門松は、根引きの松(門松の元となった文化)の流れを受け継ぎ、伝統を重んじる地域などは玄関に根が付いた松のみを飾る場合もある。しかし一方で、二条城などの観光名所では、見栄えを重視してか現代風(特に、関西風)門松を飾ることも近年は珍しくない。

 また、京都競馬場では2020年現在、一月上旬に門松ステークスという名前のレースが実施される。2009年に休止されていたレースだったが、2019年から1,600万円以下条件競争として、ダート1,200メートルのレースとして復活している。ちなみに、2020年の一着ははヤマニンアンプリメ。

 

大坂の門松>

 大坂の門松は、所謂関西風門松の代表格として特段に派手である。前述のように紅白の葉牡丹が付くなど、関東風とは大きく異なる赴きである。また、近年はより派手に見えることからか、そぎの形式の門松も目立つ。もともとは、寸胴が一般的だった。

 

兵庫県の門松>

 西宮市の西宮神社では、十日えびすの宵宮で市中を巡幸するえびす様に葉先があたらないよう、松を下向きに付け替えて「逆さ門松」にする。

 神戸市の生田神社では、水害で倒れた松の木が社殿を壊したとの言い伝えがあり「杉盛り」を飾る。数千本の杉の枝で杉盛りを作り、それに榊やススキを飾る。更に、12本の注連縄で桜門と杉盛りを結び、12か月と十二支の繁栄を祈る。以前は社の周囲に松の木が植えられていたが、延暦18年(西暦800年)頃の大洪水の際、松がその役割を全く果たさなかったことから、それ以来松の木が植えられていない。

 

【中国・四国の門松】

 

広島県の門松>

 広島県には、まれに土台が三角形で作られているものが見られる。他の地方ではあまり見られず、また文化的背景も確認出来ないため、広島に近い特定の業者が作成しているものと思われる。その場合、土台は杉皮で巻かれる。

 

鳥取県の門松>

 鳥取県米子上安曇(かみあずま)集落は昔から門松を立てない村として知られる。理由としては、上安曇楽楽福神社(さきふく)の氏神が、ある年の大晦日の晩に女のところに泊まりに行き、鶏の鳴く前に帰ればよいと思っていたところ、鶏が真夜中に鳴いてしまい慌てて家を飛び出たところ、門松の松で眼を突いて片目を潰したという故事がある。それ以来、上安曇の集落では門松を飾ることも、鶏を飼うことも、卵を食べることも戦後しばらくまでせず、現代においては門松を飾らない風習だけが残ったとされる。飾ってよ。

 

山口県の門松>

 山口県萩市は、萩城城下町の菊屋家、長屋門入口に江戸時代の中期に飾れていた伝統の門松が飾られている。土台は広げて下ろしたクヌギの枝の上に、藁の縄を底の広い円錐型に隙間なく巻く。そして、その中心部に枝付きの大きな松(右側に黒松、左側に赤松)を備えるという、質素ながら他には見られないものである。 

 

高知県の門松>

 高知県は、現在は全国各地で見られる紙の門松(前述)の源流として知られている。

 高知市上町の共和印刷が昭和27年(1952年)に、初代の社長が松林の保護と新生活運動の一環として考案し、近隣に配布したことに端を発した。その後、昭和29年に市の福祉課で採用され、昭和30年から平成16年まで市の事業として市内全戸に配布が続いていた。

 なお、「高知県では、門松は紙に印刷されている」という旨が、テレビ番組「秘密のケンミンSHOW」(日本テレビ、2009年1月1日放送)で紹介されたが、無論県内全域の門松が紙というわけではなく、一般的な門松も広く見られる。

 

【九州の門松】

 

<福岡県の門松>

 福岡県には、「日本一の門松祭り」を冠するお祭りがある。

 宮若市の年末年始の風物詩として定着している「日本一の大門松祭」。高さおよそ10メートル、台座の直径5メートル、台座の高さ約2メートルの驚異的に大きな門松が二基聳える。近くの山から真竹200本、孟宗竹150本を切り出して作る。圧巻である。

 なお、福岡県糟屋郡粕屋町大字大隈には、JR九州篠栗線福北ゆたか線)の駅として門松駅(かどまつえき)があるが、これに関しては本稿で述べる門松とは無関係と考えられる。

 

佐賀県の門松>

 佐賀県では、佐賀藩に端を発する鼓の胴の松飾りが飾られる。藩政時代から作られている佐賀藩伝統の松飾りである。横倒しにした米俵の中心部を縄で絞り大きくくびれさせたような形にし、その上にダイダイやユズリハ、炭の飾りを添え、それを玄関に吊るしたもの。佐賀城本丸歴史観に例年飾られるものは、おおよそ縦80センチ、横120センチで重さは約50キロ程度。

 現在では、佐賀城本丸歴史館や蓮池公民館、芙蓉中学校の正門などに飾られている。佐賀市蓮池町の「鼓の胴の松飾り保存会」が主に作成しており、蓮池流などとして知られる。

 また、佐賀県唐津市呼子朝市通りには、例年「イカす門松」が飾られる。観光客が減る冬場の目玉にしようと、唐津観光協会が20年前(2000年頃)から毎年設置している。現代の風習、という趣でとてもGoodだ。

 イカの町として知られる唐津市呼子町呼子朝市通り・憩いの広場に、まずヒオウギガイやサザエと約5千個の電飾、更にイカやアジの干物を飾り付けた「イカすクリスマスツリー」が設置される。それはツリーとして25日まで飾られ、一部の飾りを正月風に変更し、26日から翌年1月8日までは「イカす門松」として引き続き飾られる。要すれば、ツリーとハイブリッドな門松、リアル・かどまツリーということだ。

 

長崎県の門松>

 対馬藩宗家では、松のかわりに椿を使用していたとされ、そのため松飾りでなく椿飾りと呼ばれていた。更に、門内に玄関を向いて設置しており、これは往来を背中にしていることから、背中合わせの松飾りと呼ばれていた。背中合わせの松飾りとしては、前述の吉原のものも有名。

 また、鳥越の平戸藩松浦家では正月の門飾りに椎の木の枝と竹を立てており、「椎の木飾り」と呼ばれた。このことから、江戸では平戸藩主は「椎の木松浦」と呼ばれていたそう。単純だな。

 

熊本県の門松>

 熊本県の門松は歴史的経緯の深さに特徴がある。

 まず有名なのは、人吉市の一本門松である。鎌倉時代初期の人吉地方に、相良氏に討ち取られた矢瀬主馬佑(やぜしゅめのすけ)という代官がいた。矢瀬は平家の家人であり、源頼朝の命で入国した相良長頼に、人吉城の明け渡しを拒否したことから、1198年12月、胸川沿いで暗殺された。門松を作っていた矢瀬の家臣はその一報を聞き、作った一本を残して駆けつけたという故事があり、これにちなみ東間下町、同上町では正月に「一本門松」を飾る風習が残る。なお、一本門松とは竹が一本の門松ではなく、通常一対の門松に対し、この門松は一基のみ飾るという意味である。

 また近年は、宇城市のアグリパーク豊野に高さ11メートル超の巨大門松が設置される。11月の末頃には設置されており、時期としても相当早い。なお、門松を形作る竹は、本物の竹ではないように見受けられる。でも、門松は自由なのだ。竹を使っていなくても、問題はない。

 

大分県の門松>

 大分県大分市の大分縣護國神社に飾られる門松も日本一を自称する。

 この門松は、鉄製というところに特徴があり、高さ18メートル、重さ35.5トンを計上する(2018年)。

 

<宮崎県の門松>

 宮崎県は、飫肥藩(おびはん)があった日南市に、年末年始の風習として江戸時代から飫肥藩伊東家に伝わる門松としめ縄が飫肥城大手門と豫章館に飾り付けられる。

 大手門の両脇に、長さ6メートルの竹と、その間に長さ7~8メートルの竹が横に組まれる形状は、一見江戸時代によく見られる形式に見える(仙台のものと類似)。中央部のしめ縄は左右の長さが約4メートルある。しめ縄に付けられた15センチ四方の白い袋の中に、子孫繁栄を願うダイダイやゆずり葉、命の源である米、長寿の願望を示す干し柿などが入っている。仙台フォルムと若干似ていると言えなくもない。

 特徴的なのは、しめ縄を取り付けた竹の根元部分が、束にしたシイの木(割木、節木:せちぎ)で固定されていること。土台の椎の割木は「うれしい」「楽しい」に通ずる意味を持つ。その椎の木に、縁起物の松や梅、それに赤い実のついた南天などを飾る。

 他にも、県内駒宮神社などで見ることが出来る。

 

<鹿児島県の門松> 

 南九州市知覧町武家屋敷の門松は、円錐状に盛ったシラス(白砂)に笹のついたままの竹や松・ゆずり葉をたてて、シラスには薪を3本円錐状に置く。シラスを盛った門松は、神様が降臨されたとき宿られる依代(よりしろ)、薪を置くのは「かまどの火を絶やすことなく、三度・三度食べられますように」、「この土地に根付いていられますように」「薪の鋭い割れが邪気をはらう」などの意味があるとされている。手打地区でも同様のものが見られ、これは鎌倉時代甑島地頭として鎌倉から来島した小川氏とその家臣団によって伝えられたものと考えられる。

 また、奄美大島では、山から採ってきた竹の葉(竹の枝葉の細い部分で、稈はあまり使わない)とゆずりはを束ね、門の辺りに立てた杭に縛り、根元に化粧砂として、浜の白い砂を山の形に盛り、そして撒くのが伝統。おおよそ、門口から入口まで撒く。

 

 以上、駆け足になったが各地の門松の紹介だ。紹介したかったものの1/100にも満たないが、この程度が限度だと思う。ポケモンGoのように、門松Goとして欲しい。そうしてくれたら、嬉しいな……。

 

 今回の門松はあくまで入門編だ。これから中級、上級と続いていくのだが生憎皆様の集中力が限界を迎えつつあるのが主因でこれ以上は続けられそうもない。中学生時代の修学旅行もかくや、という情報の詰め具合だ。

 しかし、今回で来る正月シーズンに向けてウォーミング・アップは十二分に済んだことだろう。そしてシーズンを迎えた暁には、その目で門松を確かめてほしい。なに、そこら中にうじゃうじゃ生えているので、嫌でも目に付くだろう。日本全国どこに行っても門松まみれなはずなので……

 ちなみに、門松の意義は諸説あるが、ざっくり言えば健康長寿を願うという意味合いもある。今回の例の新型から身を護るという意味でも、親和性は高いのではなかろうか。もし例の新型の自粛が正月までに明けた暁には、何か別の目的をもって行きたいところに旅行して欲しい。その際に、きっと行く先々で「あそこはこういう門松で、どこそこはこういう門松があって……」という思い出が脳裏にこびり付くこと、うけあい。

 繰り返しになるが、別にどこに行かずとも視界に入るのが、門松最大の魅力なのではないでしょうか。

 ちなみに、私がもし初学者に推薦出来るならば、やはり関東関西の門松見比べをお勧めする。特に、同じ系列やグループ、チェーン店で比較すると如実に差分が浮かび上がって面白い。例えば帝国ホテルの門松は大阪と東京で見事なまでの……(おそらく集中力が限界に達していると思うので、割愛)